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「そんな状態で小野さん最後の一日であと35枚、良く撮れたな…」
ってルンは感心しながら俺の手元の写真を覗き込んでるけど。
其の時はただ、『いい写真が撮りたい』。オマエをビックリさせてやる、って思って焦ってたから。中々シャッター切れなくてもどかしかったのを、思い出す。
「――うん。折角貰ったのに危うく1枚だけで日本に帰ってくるところだった。でもさ、そー君が」
「颯君が?」
少しルンの声が硬くなった気がするけど。構わずに。
「――とりあえず色鮮やかなものを見つけたら、Viviterで切り取れ、ってアドバイスくれたから、反射的に風景を切り取れたんだ。だから、ほら」
膝に乗せてた写真の束を、一枚一枚テーブルに並べていく。
「市場で見かけた深紅のサリーとか…この家の壁なんか見てみろよ。ド派手な黄色なのに、住んでんのすっごい枯れたおじいちゃんなんだぞ?」
――それから、いざよう月明りの空の青だろ?…色ばっかり追っかけてたら、白い牛とか、凄く面白く見えたし…。
ルンが何時の間にか相槌もなく黙り込んでるのに気付いて。俺また1人で暴走してた?って、写真並べるのを止めて隣に目をやろうとしたら。
「あ…っ」
写真説明してるうちにテンション上がって、何時の間にか警戒心を解いてた俺は。
腕をつかまれて引き寄せられるまま、よろけてルンの腕の中に収まった。
「おい!――ルン?」
バラバラと俺の膝から落ちていく写真たちを、床から取り上げようと腕を伸ばすけど。
ルンは身動きするのだって赦してくれないみたいに、またぎゅう、って腕に力を込めてくる。
いつも何となくふわりと通り過ぎるだけだったルンの纏ってるホワイトムスクの甘い香りは。
今は鼻先を誘うように擽ってきて、抗う力だって奪っていく。
「――何で俺に、連絡くれなかったんだ」
何で颯君なんだ。って。
耳元で、戒められてる俺より苦しそうな声で呟くから。
「ルン寝てたら悪いな…と思ってさ。颯君なら絶対起きてる時間だから」
確か日本は1時過ぎくらいだったし。素直に理由を言ったらルンも解ってくれると思ったのに。
「そんな、時間の問題じゃなくて――小野さんが嬉しいって思ったり、楽しい、って思ったり。悲しいとか、悩んでるのを、俺も共有したいんだよ…」
俺も良かれと思ってした事だったけど。それでルンが傷ついたなら。謝るしかないだろ?
「――ゴメン」
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