614人が本棚に入れています
本棚に追加
違う。
「――俺は別に、小野さんに謝って欲しいんじゃない」
怒ってるのに、俺が中々腕の中から解放しないから。
「ルン。いい加減にしろ。――離せ」
本気で嫌がって腕の中で身を捩った小野さんは。顔を背けてぐいって俺の胸を両手で押し戻したら。
膝から零れ落ちて床にバラバラに広がった色鮮やかな写真達を。また大事そうに拾い始める。
「――どうしろって言うんだよ。ルンだって、俺がインド居る時一回も連絡くれなかったじゃねえか」
颯君もニノもアイダちゃんもメールくれたぞって。
背中越しの小野さんの顔は見えないけど。
「あの時は…」
って声を掛けたら。写真拾い上げる手が止まって。
俺の答えを待ってる背中は、少し震えてる気がした。
「――小野さんが時間ない、って言うくらいだから、ホントに忙しいんだな、って思って。少しの休憩時間もゆっくりして貰いたいって思ったんだ」
邪魔したら悪いし。ホントは連絡したいのずっと我慢してた。
カッコ悪いけど正直に言ったら。
まだ写真床に残したまま起き直った小野さんは。
――ぎゅ、って。
ためらいがちな力加減だったけど。
初めて俺に。ハグをくれた。
「あのさ。俺も日本に帰ってきたとき。写真がちゃんと写ってたかどうか不安で。確かめるまで――ルンに会いたくないって思ってたんだ」
撮れなかった時もさ、オマエのことがっかりさせたくなかったから、連絡できなくて。
って。素直に話してくれたから。
「そっか…」
詰まらないわだかまりは、小野さんの言葉ひとつで。呆気なく消えていく。
「おかしいよな」
って。俺に抱きついてる小野さんが今度は笑って震えてる。
「何が?」
「お互いのこと思ってやってたつもりだったのに、全然お互いのためになってなかったってコトだろ」
「ホントだ…」
「――じゃあ。この話はもう、おしまい」
「写真は…?」
最後の一枚のエピソードまで話してくれる笑顔の小野さんを見たいけれど。
それはもう、腕の中から小野さんが居なくなるってことなのかと思ったら。
欲張りな俺は。どっちも欲しくなるから。
「――あ。オマエ今…何か葛藤してんだろ?」
小野さんにはすっかり見抜かれてる。
「泊まってってやるから。――言っとくけど今夜の俺の話は長いぞ?」
『やった、小野さん初お泊り?』
ほんの少しずつだけど。確実に距離は縮めてるはずだって、信じたかった。
最初のコメントを投稿しよう!