玄い女神(ルン×サトリ)

17/38
前へ
/339ページ
次へ
違う。 「――俺は別に、小野さんに謝って欲しいんじゃない」 怒ってるのに、俺が中々腕の中から解放しないから。 「ルン。いい加減にしろ。――離せ」 本気で嫌がって腕の中で身を捩った小野さんは。顔を背けてぐいって俺の胸を両手で押し戻したら。 膝から零れ落ちて床にバラバラに広がった色鮮やかな写真達を。また大事そうに拾い始める。 「――どうしろって言うんだよ。ルンだって、俺がインド居る時一回も連絡くれなかったじゃねえか」 颯君もニノもアイダちゃんもメールくれたぞって。 背中越しの小野さんの顔は見えないけど。 「あの時は…」 って声を掛けたら。写真拾い上げる手が止まって。 俺の答えを待ってる背中は、少し震えてる気がした。 「――小野さんが時間ない、って言うくらいだから、ホントに忙しいんだな、って思って。少しの休憩時間もゆっくりして貰いたいって思ったんだ」 邪魔したら悪いし。ホントは連絡したいのずっと我慢してた。 カッコ悪いけど正直に言ったら。 まだ写真床に残したまま起き直った小野さんは。 ――ぎゅ、って。 ためらいがちな力加減だったけど。 初めて俺に。ハグをくれた。 「あのさ。俺も日本に帰ってきたとき。写真がちゃんと写ってたかどうか不安で。確かめるまで――ルンに会いたくないって思ってたんだ」 撮れなかった時もさ、オマエのことがっかりさせたくなかったから、連絡できなくて。 って。素直に話してくれたから。 「そっか…」 詰まらないわだかまりは、小野さんの言葉ひとつで。呆気なく消えていく。 「おかしいよな」 って。俺に抱きついてる小野さんが今度は笑って震えてる。 「何が?」 「お互いのこと思ってやってたつもりだったのに、全然お互いのためになってなかったってコトだろ」 「ホントだ…」 「――じゃあ。この話はもう、おしまい」 「写真は…?」 最後の一枚のエピソードまで話してくれる笑顔の小野さんを見たいけれど。 それはもう、腕の中から小野さんが居なくなるってことなのかと思ったら。 欲張りな俺は。どっちも欲しくなるから。 「――あ。オマエ今…何か葛藤してんだろ?」 小野さんにはすっかり見抜かれてる。 「泊まってってやるから。――言っとくけど今夜の俺の話は長いぞ?」 『やった、小野さん初お泊り?』 ほんの少しずつだけど。確実に距離は縮めてるはずだって、信じたかった。
/339ページ

最初のコメントを投稿しよう!

614人が本棚に入れています
本棚に追加