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老いた狐は、夢を見ていた。
ひどく穏やかな、懐かしい夢。
郷愁を呼び起こすそれは、しかしながら悪夢であった。
響く幼子達の笑い声、川に置かれた水車の回る音、仕事に精を出す男衆の引く荷車の揺れ、各々の家屋の飯炊きに昇る白い煙。
どれ一つとっても忘れる事のない長閑な情景は、老狐にとっては最早残酷な責め苦でしかない。
知らず、彼の眦から流れ落ちる雫。
拭われる術のないそれは、彼の横に生える草に露を落とした。
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