※桜は散らぬ(幸佐)

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 それからはた目にも解るほど顔を青くして、佐助は同期生に一言二言告げて走って帰ってきた、らしい。  帰るなり鞄を放り出し、リビングの端でかたかたと体を震わせる姿は流石に見るに堪えない。先に帰宅していたかすがが仕方なく鞄を手に取り、一言断りを入れて佐助の部屋へ運んだ。  かすがは朧気に、夢を見る。  美しい神の化身に一生を捧げ、己が戦場を走り抜け、義理の兄と時に戦い時に手を組み、そして。  彼が敬愛する、紅蓮の男を見る。  夢だがしかし、ただの夢では片付けられぬ世界だった。兄の同期生には神の化身であるあの方の友と同じ名を持つ男が居る。  佐助が桜を厭う理由は、紅蓮にあるのだろうか。かすがは兄のベッドへ鞄を放り投げ、考え事もそこそこに一息吐く。  佐助の部屋は桜の大木が見える窓がある。春の間は常にカーテンが覆って隠れていた。何かに惹かれるようにかすがは窓辺に立ち、薄緑のシンプルなカーテンを開け放つ。  息を、飲んだ。 *―――――― 「かすがあ……?」  何時まで這っている気だ佐助、もういい鞄を片付けてくる。水でも飲んでいろ、と言い放ったかすがが部屋に消えて約三十分。音沙汰が一切無い義妹に疑問を抱き、弱々しく佐助が名を呼んだ。返事は無い。 「かすが」  もう一度。  やはり何も返ってこない。かすがに限って、部屋を漁るということは無いだろうが。  震える体に鞭打ち、佐助は自室へ歩き出した。普段は何とも無い道程がやけに長い。本能が警笛を鳴らした。駄目だ入るな開けるな、と頭の中で自分が叫んでいるのにドアノブへ伸びる掌は止まらない。ノブを掴む。  途端、頭の奥で何かが弾けた。火花のように、ちりちりと思考を焼く。紅蓮が佐助の体を這い上がり、首元で。 「佐助!」  かすがの声で佐助は現実に引き戻された。
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