お気の毒でした(幸←佐)

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 佐助が唯一無二の主、幸村は白々しく嘘を吐く。奥を取るのが決まった癖に相も変わらず佐助を床に呼び、ただ戦のように溺るる。  佐助はそれを客観的に見ているのが常だった。必要な事ならばそれで良いのだ。幾ら自分本位に扱われても、それは飽く迄も道具として在るべき姿。何を悲しもうか、嘆こうか。  幸村の敷布団に、佐助は臆する事なく全身を埋めていた。きっと最後になるであろうが、惜しむよりも嘆くよりもひたすらに気だるい。その余りにも冷淡な感情に、佐助はほんの少しだけ驚いてからせせら笑った。ああ、こんな物なのだ。本来ならば隣に眠る幸村を見て、愛らしい幼気な少女のように胸が痛む予定だったのだが、微塵も痛くない。本末転倒である。  ごろり、と寝返りを打ち佐助は幸村に背を向けた。馴染んだ彼の匂いは、化粧を纏う女と交わり澱み、きっと消えてしまう。それは少しだけ寂しい、気がした。  掛け布団を抱き締めて、そっと鼻先を寄せる。忘れないように、刻み込むように、息を吸い込む。  俺が愛した幸村様は、明日に到着する姫君と婚姻の杯を交わす。子を育む。くノ一であれば、既成事実を作って奥にでもなれただろうか。  答えは決まっている、否だ。男女問わず幸村の手足となるのが佐助の定めであり、覆せない道理であり、己が生きる意味だ。それらは心の臓にしかと根付いている。だから悲しくないのかもしれないな、と佐助は思った。それだけだった。襖の隙間から朝日がゆるりと差し込み、佐助の目を焼く。  婚姻の儀には余りにも美しすぎる日の出に、生まれて初めて涙を零す。理由は解らないが、無性に泣きたくなった。  幸村の敷布団に三滴落ちて、染みて、佐助の心の靄のようにすうっと消えた。
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