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風が止み、そっと目を開ければ、夜闇に舞う桜吹雪が視界に映り、沖田は感嘆の溜め息を漏らしながら、桜の樹を見上げた。
「…あぁ、満開で見事な桜ですね」
沖田は近場の岩に腰を下ろすと、桜の樹を飽きる事なく眺め続けた。
この夜、はらはらと風に乗り、桜の花びらが舞い散る様に静かに運命の輪は廻り始めた。
壬生寺から走り去った朔と、壬生寺の桜を見上げる沖田。
交わっていても何ら不思議は無かった二人の運命は、ほんの僅かな差ですれ違っていったのだった。
そして、運命の輪が廻り出したのは、沖田と朔だけではなかった。
時を同じくして、また一つ、京の町中で運命の輪が廻り出していた。
夜の京の町中を走り抜ける足音と人影が二つ。
「信じらんない!馬鹿杉なにやってるのさ!」
「悪かったって言ってんじゃねぇかよ!」
「悪かったって言葉じゃ済まされないよ。馬鹿杉のお陰で俺まで追われるはめになってんだけどさ…そこんとこ分かってる?」
「う…」
雲間に隠れていた月が姿を現し、二つの人影を照らす。
一人は細身で端正な顔立ちをしており、泣き黒子が印象的だった。
もう一人…馬鹿杉と呼ばれていた男は中肉中背で、どちらかというと精悍な顔立ちをしている。
彼らは、幕府が危険視する長州藩の代表的な志士、吉田稔麿と高杉晋作だった。
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