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案の定、往来で大立ち回りをし、騒ぎを聞き付けて駆け付けてきた新撰組と鉢合わせた。
それだけならまだ吉田は許した。
いや、許すと言うよりも、それだけならば自分に被害が無いので吉田は放っておいた。
そう、揉め事に首を突っ込んだのは高杉だけであって、吉田は我関せずで茶屋で団子を食べていたのだ。
周りにいた町人はおろか、駆け付けてきた新撰組の誰一人として、吉田が高杉の連れだとは思って居なかっただろう。
吉田が高杉と共に揉め事に首を突っ込んでいない事もあったが、何より吉田は高杉と違い、面が割れてはいなかったから。
だから吉田は、高杉を横目に見ながら、悠々と団子を食べていた。
だが、あろう事か、高杉は吉田の名を呼んだのだ。
『吉田!!逃げるぞ!』
流石の吉田も、これには驚きの余り団子を喉に詰まらせかけた。
あの瞬間に湧いた殺意を、吉田は暫く忘れないだろう。
むしろ、悪態を吐く程度で済ませ、高杉を斬り殺さなかった自分を褒めて欲しいくらいだと、吉田は思う。
高杉のあの一言で、吉田は今も高杉と共に逃げ回る羽目になったのだから。
「もう…あっち行ってよね馬鹿杉!!付き合いきれないね」
吉田はそう言うと、高杉を思いっきり突き飛ばした。
これが、吉田の人生を大きく変える運命の出逢いになるとは、この時の吉田も高杉も思っていなかった。
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