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月明りに照らされて浮かび上がる白い肌。
力無く垂れるその白い肢体に長い黒髪。伏せられた長い睫毛。
そして、どこか甘い香りに高杉の感覚は奪われた。
感覚だけではなく、時間さえ奪われた様な錯覚を覚えた。
(何て綺麗な…)
「高杉?」
固まったまま動かない高杉に対して、吉田が訝しげに声を掛けると、その声に高杉は我に返った。
(そうだ。今は見惚れてる場合じゃない)
状況から察するに、高杉がぶつかったのはこの女だ。
更に言うならば、ぶつかった勢いで女を下敷きにしたのだろう。
その結果、高杉に押し潰されたこの女は気を失った。
(……うわ…俺…最低…)
状況を把握した高杉は片手で顔を覆うと、深い溜め息を零した。
そして、未だに自分の腕の中でぐったりする女を軽く揺すってみたが、反応はない。
伏せられた瞳が開く気配すら無い。
どうやら、相当な圧力で押し潰してしまったようだ。
「…稔麿」
「何?」
「ぶつかり方が悪かったみたいで、気絶させちゃった」
「はぁ?何にぶつかったのさ?」
「…女の子」
高杉から出た言葉に吉田は少しだけ高杉の側に寄ると、月明かりで逆光の高杉と、高杉が抱えている物体を目を細めて注視した。
よく見れば、高杉が抱える影が女であることが分かる。
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