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「くっそ。いつか絶対に下剋上してやるからな稔麿」
「へぇ。それは楽しみにしてるよ」
「おい、こっちの方で声がしたぞ」
会話に被さる様に聞こえた声と複数の足音に、高杉と吉田は言い合いを止めると互いに視線を交差させた。
どうやら長居し過ぎた挙句に騒ぎ過ぎた様だ。
「幕府の犬どもが来たか。流石に犬だけあって鼻が良いな」
吉田は鼻で笑いながら皮肉たっぷりに呟いた。そして、横目で高杉を見たかと思うと一目散に夜の闇の中へと駆けて行った。
「高杉、先に行ってるよ」
「え?あ…ちょっと待てよ稔麿!!」
吉田の言動に一瞬呆気に取られた高杉だったが、置いて行かれたとすぐに悟り、慌てて吉田の後を追おうと腰を浮かせた。
だが、そこで己の腕の中の存在に気付き、高杉は困り果てた様な顔をした。
置いて行くのが一番良い。
気を失った人間を抱えて走るなど、新撰組に追い付かれる危険が高い。
吉田もそう分かっていたから、高杉を置いて行ったのだ。
あれは、女を置いて早く追い付いて来いという意味だ。
気を失っている女を置いて行けないであろう高杉に、一刻も早く女を置いて走り去る決意をさせる為の行動だ。
それが吉田なりの高杉への優しさだ。
吉田の判断は正しい。
だが…
高杉は女と徐々に近くなる足音の方向を見比べていたが、やがて舌打ちをすると、女を抱えて立ち上がった。
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