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高杉が無事に長州藩邸へと辿り着けたのは、一重に潜伏生活のお陰だろう。
潜伏生活のお陰で高杉は、京の裏道を熟知していた。
その知識が高杉を無事に長州藩邸まで導いたのだ。
「取り敢えず、ここまで来れば一安心、か…」
見慣れた藩邸を目の前に、高杉ほっと胸を撫で下ろしたのだが、それも束の間であった。
門前に佇む人影に高杉は顔を引きつらせた。
説教を受ける覚悟はしていたが、こんなに早くその時が来るとは正直思っていなかった。
「おかえり、晋作」
高杉の心境とは裏腹に、門前の人影…桂は綺麗な笑みを浮かべた。
その笑顔が高杉にはこの上なく恐ろしい。
「お…おう。戻ったぜ小五郎」
「無事に戻ってきたようで安心しましたよ」
(…目、笑ってねぇし)
顔は綺麗な笑みを称えているのに、その目は一切笑ってはいない。
それがまた高杉の恐怖心を煽る。
一体いつ桂の説教が始まるのかは、長い付き合いの高杉ですら分からないのだ。
「さて、晋作…」
(うわっ…きた)
桂の言葉に高杉は生唾を飲んだ。
褒められた事ではないが、桂の説教は過去に何度も受けている。
それでも、毎回この瞬間だけは嫌な汗が背中を伝う。
「色々と聞きたい事はあるけれど、取り敢えず…その片手に抱えている娘は?」
「あ…えっと…拾った?」
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