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桂はそう告げると、高杉が抱える娘に視線を移した。
この娘は今、自分の身にとんでもない事が降り懸かっているとは露ほども思っていないだろう。
桂とて正直、娘を気の毒だとは思う。
だが、これも今の世では仕方のないこと。
一歩間違えれば、容易く命を失いかねないのが残念ながら今の世なのだ。
「彼女が私達の同志になるか、大人しく藩邸に幽閉されるかのどちらかを選んでくれれば良いが…彼女がどちらも拒んだ場合は、可哀相だが彼女を殺さなくてはならない」
「ちょっ…待てよ小五郎!!」
「晋作、私達がやろうとしてる事を忘れたのかい?」
「っ!」
「…彼女を巻き込みたくないのなら、今すぐどこかに捨ててきなさい」
桂はそう言うと、静かに踵を返し藩邸へと入って行った。
桂の言うことは正しい。
自分達がやろうとしていることは遊びではない。
皆、命懸けで事を成そうとしているのだ。
実際、多くの同志が命を落としてもいる。
実際、高杉も桂の立場であったなら、桂と同じ事を口にしただろう。
考えようによっては、どこかに置いてきた方がこの娘の為かもしれなかった。
同志となっても、藩邸に幽閉される身となっても、間違いなく過酷な運命を辿るだろう。
更に、どちらも拒んで殺害される恐れもある。
だが、どこかに置いてくれば、僅かではあるが運良く平穏に生きられる可能性が残される。
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