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「……あぁ」
短く答える高杉の腕には、門前で見た娘が抱えられていた。
そう。高杉の出した答えは、拾った娘を藩邸内へ入れるというものだった。
「小五郎、これが俺の答えだ。藩邸内に入れたということは基本的にはお前の意見に賛同したと見なしてくれて構わない。だが、一つ俺からも条件がある」
「何ですか?」
「…こいつに、猶予をやってくれ」
「猶予、ですか?」
桂が不思議そうに問い返せば、高杉は無言のまま頷いた。
「こいつが目覚めてすぐに、同志になるかどうかを迫らないでくれ。こいつが何者かは俺は分からない。こいつは何も知らないただの町娘かもしれない。どうせ目が覚めたら、お前が事情聴取もどきをするだろう?その時に万が一、ここが長州藩邸だと…俺達が長人だと気付いていなかった時は、暫く様子を見てやって欲しい。ここが何処なのか、俺達が誰なのか知らなかった場合、こいつを外の世界へ戻す機会を残してやって欲しい」
「随分とその娘さんに甘いね、晋作」
「そりゃ、俺のせいで巻き込んじまってるからな」
高杉は、己が抱える娘へ視線を落とす。
桂もまた、高杉の視線を追うように高杉の抱える娘を見つめた。
まだ年若い娘だ。
西洋の服を纏う彼女は一体何者なのだろうか。
何故、女一人で夜の町を歩いていたのか…。
疑問は尽きない。
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