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男が心底嫌そうに吐き捨てるのと同時に襖が勢い良く開け放たれ、怒声が響く。
「こらぁっ!誰が牛だ!」
「…うるさい。鼓膜破れるから静かにしてよね」
泣き黒子の男は現れた短髪の男にそう言うと、その男を指差しながら朔の方へ顔を戻す。
「あ、これが牛ね」
「え?」
「だから、君を轢いた牛」
(……牛って…動物の牛じゃなくて人間?牛ってあだ名の人…?)
「牛じゃねぇ!俺は高」
「梅之助、良い歳なんだから、少しは落ち着きを持ちなさい」
短髪の男の言葉を遮るように、また別の声が響く。どうやらもう一人いたようだ。
「驚かせてすまないね。そして、気付いたばかりだというのに騒がしくて申し訳ない」
「あ、これ牛の飼い主ね」
「……栄太郎…変な呼び方は止めてくれないかい?」
そう言って姿を表した男を朔は思わず凝視した。
泣き黒子の男も、短髪の男も着物を着ていて、今時なんと古風な人間かと思ったが、三人目の男はもっと古風だった。
いや古風という言葉で片付けてはいけない気がする。
月代こそないが、髷が結ってあった。
(……何…この人達…)
この人達に関わってはいけない。
危ない人達。
朔の本能が、そう警鐘を鳴らす。
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