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自然と身体に力が入るが、その様子に三人目の男は苦笑する。
「あぁ、ほら。娘さんが警戒してるじゃないか。栄太郎も梅之助も自己紹介くらいはしたんだろうね?」
「…いや」
「………してねぇ」
二人の返事に男は呆れたように溜め息を吐く。
「目が醒めたら、知らない場所にいて、知らない男が騒いでたら誰だって吃驚するし、警戒するだろう?君達は本当にそういうところ気が回らないよね?」
男はそう言うと、笑顔のまま短髪の男の両方のこめかみに拳を当てると、ぐりぐりと力を込めた。
「いだだだだだだ!」
「……晋作、さっき本名名乗ろうとしただろう?君は馬鹿なのかい?」
耳元でぼそっと呟かれた声に短髪の男…高杉は言葉につまった。
先程、この三人目の男…桂が言葉を遮ってくれていなかったら高杉は危うく本名を名乗っていた。
本名を名乗っていたら、この娘はもう外の世界へ帰してやれなかっただろう。
この娘を外の世界へ帰す道を残すよう桂に要請しながら、自分でその道を断つところだったのだ。
だから、桂には感謝している。
だが…
桂から解放された高杉は己のこめかみを擦りながら、恨みがましい視線を桂へ向けた。
「なんだい?梅之助」
「……暴力反対」
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