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この穏やかそうな見た目に騙されるのだが、桂は意外とすぐに手が出る。
下手したら吉田よりも、だ。
「…暴力がどういうものか教えてあげようか、梅之助」
笑顔で言う台詞ではないが、清々しいほどの笑顔でそう言い放つ桂に、高杉は背中に冷たいものが伝った。
「…すまん。俺が悪かった」
「やっぱり飼い主じゃん」
「栄太郎…」
栄太郎…吉田の言葉に桂は色々と言いたいことはあったが、それらを飲み込んだ。
ここで下らない言い合いをする為にやって来たわけではないのだ。
桂は朔の方へ向くと、穏やかな笑みを浮かべた。
「…見苦しいところを見せて申し訳なかった。まず、名前を聞いても良いかな?私は新堀松輔。そこにいる泣き黒子の男が吉田栄太郎。で、この男が谷梅之助だ」
「……九条…朔」
怪しい男達に本名を名乗ることは少し躊躇われたのが、取り敢えずは素直に本名を口にしたのだが、朔の名前を聞いた男達が僅かに驚いた表情を浮かべたことに、朔は不安を覚えた。
やはり、本名は名乗らない方が良かったのかもしれない。
九条家は元華族という名家だ。
姉達も身代金目的の誘拐未遂などに遭ったことがあるとは聞いている。
この男達が何者かは分からないが、そういった危険性は皆無ではない。
そして、今の反応から察するに、九条家が元華族の家柄という事を知っている可能性が高い。
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