-最悪な出会い-

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朔は目の前が真っ暗になっていく感覚と絶望感に襲われた。 タイムスリップなど非科学的なと思うが、実際に今の朔を取り巻く状況は紛れもなく、それだ。 そうとしか説明が付かないことだらけなのだ。 だが、そう簡単に受け入れられるものでもなく、朔の頭は完全に混乱していた。 周囲の音が遠ざかり、ただ己の心臓の鼓動だけが五月蝿いほどに鳴り響き、呼吸は浅くなっていく。 極度の緊張と混乱からだろうか。 朔の乾いた唇からほんの僅かに息が漏れた。 「───っ」 次の瞬間、男達のいる襖が勢いよく開いたかと思うと、朔は強い力で引っ張られた。 正直、何が起こったのか朔には分からなかった。 ただ、目の前には恐ろしく冷たい眼があった。殺気を宿した眼だ。 「……何、してるの?」 地を這うような冷たい声に朔の背筋は冷えた。こんなにも冷たく恐ろしい声を人間は出せるものなのだろうかと思わずにはいられない声だった。 「返答次第では、このまま君の喉を掻っ切るよ?」 そう言われて、朔はようやく自分の状況を理解した。 自分は今、目の前のこの男に胸ぐらを掴まれて引っ張られ、喉元に刀を押し付けられているのだと。 「稔麿!やめろ!」 「刀を下ろしなさい!」 部屋の中から青い顔をした残りの男二人が慌てて出てくるが、目の前の男は動じることなく、二人の方へ視線を向けた。
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