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「二人とも何で止めるの?明らかに怪しい行動してるでしょ?この女」
「だとしても、いきなり斬りかかるものではないよ」
「とにかく、一旦刀を下ろせ」
そう言う二人の姿を見て、朔はこの突拍子もない現実を受け入れるしかないのだと悟った。
何故、気が付かなかったのだろう。
短髪の男の顔は知っている顔だ。
白黒の写真であるが、教科書などによく載っている顔。
その写真よりいくらか若く健康的であるが間違いない。
高杉晋作だ。
そして、あの髷を結っている男の顔の写真も見たことがある。
維新三傑の一人、桂小五郎。
彼ら二人の存在が教えてくれる。
非科学的だと目を背けた仮説が間違っていないことを。
ここは平成ではないのだと。江戸時代末期、いわゆる幕末と言われた時代なのだと。
そして、喉元に突き付けられた刀の冷たさと、僅かに食い込んだ刃の痛みからは、これは夢ではなく現実だと。
「……まさか猪突猛進、無鉄砲代表のお前に諌められる日がくるとはな」
男は暫く高杉達と睨み合っていたが、やがてそう言うと、朔を半ば突き飛ばすようにしてその胸元を掴んでいた手を離し、刀を鞘へ納めた。
「……取り敢えず中に入りなよ。分かってると思うけど、妙な真似したら、すぐに斬るからね」
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