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春の穏やかな日差しの中、とある一軒の家の庭からは賑やかな子ども達の声が響く。
元気に走り回る子ども達を、朔は家の中から微笑ましく見つめていた。
「本当に元気ね。誰に似たのかしら」
「まったくだよ。つまんない感傷で晋作って名付けたのが間違いだったかも。桜のお転婆も誰に似たのやら…」
「起きてたんですか?」
不意に聞こえた声に朔は、自分の膝を膝枕にして横になっていた人物…吉田へ視線を向けた。
すると吉田は、ごろりと寝返りを打ち上を向くと、下から朔を見上げてきた。
「今さっき起きたとこ」
「そうですか。それでは…」
起きたのだし、退いてもらおうと朔は考えたのだが、その思考を読んだかの様に吉田は言葉を遮ってきた。
「嫌だよ。退かないよ」
吉田はそう言うと、ふっと笑い、朔の方へと手を伸ばしてきた。
そして、朔の頬に触れた。
「まだ良いでしょ?昨夜は手加減してあげたから…あんなもんじゃ足りない」
「っ…!!」
吉田の言葉に朔が顔を赤く染めると、吉田は声を上げて笑った。
あの動乱の世を駆け抜け、夫婦になってからだいぶ時が経つというのに、朔は変わらない。
いつになっても、こうして顔を赤くする。
その反応が面白くて、吉田はついついからかってしまうのだ。
「まったく、朔は変わらないね。ま、面白いから良いけど」
「もう…知りません!」
「悪かったって。そう拗ねないでよ。でも…足りないのは本当」
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