-回想-

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だから、甘やかしてよ。 吉田がそう告げれば、朔は諦めた様に溜め息を零した。 昔からそうだ。 気を許した人間に対する吉田の甘え癖は、今に始まった事ではない。 そして、朔は吉田の甘えを拒否出来た例がなかった。 そして、吉田もそれを分かっているのだろう。 吉田は朔の膝枕で気持ち良さそうに横になっていた。 朔の長い黒髪を指先に絡めながら。 「…今日だけですよ?」 「うん」 朔の呆れた様な返事に吉田は目を閉じたまま、嬉しそうに答えた。 そんな吉田の姿に朔は僅かに目元を和ませると、吉田の髪の毛を撫でた。 本来ならば、こうしている事が叶わない相手だった。 出会う筈がない相手だった。 明治を迎える事なく、池田屋で命を散らす筈だった相手。 朔は歴史を捩じ曲げてしまったのだ。 池田屋を生き延びた吉田は、表立って動く事はなく裏に徹していた。 藩内ですら、吉田の生存を知る者は少ないのだから、恐らく歴史書には吉田は池田屋にて生死不明と記されているだろう。 それ以外は、今のところ大筋では朔の知る歴史と変わりない。 だが、それでも生存していない筈の人間が生存しているのだ。少なからず、未来は変わった筈だ。 過去の改竄という罪を犯した事は変わらない。 それでも、罪を犯してでも、朔は吉田を失いたくなかった。 吉田の温もりを失いたくなかった。 (私は…何て自分勝手なのかしら。過去を変えるという罪を犯しながらも、この人が生きている現実が嬉しいなんて…この人が生きているなら良いなんて…)
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