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「馬鹿杉には感謝しないとね」
「え?」
不意に聞こえた吉田の呟きに、朔は現実へと引き戻され、吉田を見つめた。
「だって、馬鹿杉があの日、へまやらかして新撰組に見付からなきゃ…多分、君には出会えなかった。馬鹿杉が君にぶつかって、君を気絶させなかったら、君とこうしている今は無かった。まぁ…あの当時は馬鹿杉に心底呆れたけど、今となってはよくやった馬鹿杉って感じかな」
吉田は懐かしそうにそう言うと、吉田の髪の毛を撫でていた朔の手を取ると、その手にそっと口付けた。
「未来から来た君を引き止めたのは…いる筈のない人間を存在させた…歴史を捩じ曲げたのは罪かもしれないけど、俺は後悔なんてしてない。歴史を捩じ曲げた罪は君だけじゃない。俺も同罪だよ」
「あなた…」
吉田はいつもそうだ。
朔が何かに悩んだり、何かを気にしていると、すぐに吉田は気付く。
今の吉田の言葉も、朔が気に病んでいた事柄に気付いたからなのだろう。
そんな吉田の気遣いに、朔が吉田に笑いかければ、吉田もまた笑った。
「それにしても高杉さん、ですか…。懐かしい名前ですね。今度、お墓参りにでも行きませんか?」
「……そうだね。そう言えば、馬鹿杉には礼をまだ言ってなかったな…。ったく、俺が礼を言う前に何勝手に死んでんだよ馬鹿杉」
そう呟く吉田の声にはどこか寂しさが滲んでおり、何だかんだ言っても高杉の存在は、やはりかけがえがなかったのだろう。
「…色んな事がありましたね」
朔はそう言うと、吉田達と出会った頃の事を思い出した。
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