-最悪な出会い-

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全てはあの壬生寺の桜から始まった。 家の為に政略結婚を要求された朔は、日本を離れる前に…最後に一目だけ、母との思い出の壬生寺の桜を見たくて、東京の九条家を抜け出し、父に引き取られる前…幼い頃に母と暮らしていた京都へ向かった。 壬生寺に行きたいと言ったところで認められる訳もなく、監禁されるのが関の山だったから。 何故なら、妾の子であった朔は九条家では厄介者扱いであり、九条家の一員とは扱われていなかったからだ。 父と兄が相次いで亡くなり、後ろ盾を失った朔は更に肩身が狭くなっていた。 今回の政略結婚も、朔を体よく九条家から追い出す為のものだった。 どうにか追手を撒いて京都へ入った朔は、思い出の詰まった壬生寺の桜の樹の前で、泣いた。 今まで堪えてきた色々なものが込み上げたのだ。 九条家にいる間は、心を閉ざし感情もない人形の様であったが、ここに来た瞬間、朔は人形から人に戻れた。 時が経つのも忘れて散々泣いた。 今まで泣かずに来た涙の分も流す様に。 時なんか止まってしまえば良いと願ったが、時が止まる事はなく、東京へ戻らねばならない時間はすぐに訪れた。 もう二度と目に出来ないかもしれない桜の樹を、目に…記憶に焼き付ける様に見つめると、朔は壬生寺を後にしようとしたが、異変はその時に起きた。 何となく桜の樹を見なければならない気がして、朔が振り返ると、桜の樹が淡い光を放っていたのだ。
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