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山林で平和に暮らしていた、一匹の野生の猿は、被験体として人間に捕らわれた。その後、神戸動物研究所内の檻に閉じ込められ、薬品の投与や手術が何度も行われた。
その期間はおよそ8年にもおよんだ。
次第に、実験の結果であろうか、猿の自我がうっすらと目覚めはじめた。
「なぜこんな目にあうのだ、俺は」
と。
そして、猿は運命の日を迎える。
両手両足に拘束具を着けられ、ベッドに運ばれる光景。
ああ、またか。猿は思った。針を刺され感覚を奪われ、鋭い刃物で身体が切られてまたくっつけられるのだ、と。暴れても無駄、目を閉じてじっと黙っているのが一番楽だと悟っていた猿は、この日も研究員たちに身を委ねる。心の中は、諦めの気持ちで満たされていた。
そして、いつしか眠りについた。
数時間後――
暗闇がうっすらと晴れてゆき、今、自分は目を開けたのだとすぐに認識できた。そして、猿の心中に芽生えたある感覚。
何もかもがわかる、なぜこの場にいるのか、今まで何をされてきたのか、目を開ける前までにされてきた、すべての事象が猿の頭の中で物凄い速さで整理されていく。
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