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 しかし昔の僕は、一人ぼっちで本を読んでいる彼女がとても可哀想になり、話しかけたのだ。話しかけてしまったのだ。  もしも過去に言葉を飛ばすことができる能力があったら、僕は昔の僕を洗脳するぐらい何百回も言葉を送り続けるだろう。  しかしこんな後悔をしてももはや後の祭りなので、この話は置いておくとして。さっさと進めてしまおう。  まあ、車イスに乗って一人ぼっちな彼女が可哀想だと思った僕は、彼女に話しかけた。話題はなんだったか忘れた。確か、今日は良い天気だね、とかなんとか無難に話しかけただろう。  しかしその言葉に彼女は無言で答え、それでもしつこく話しかけた僕に彼女は言い放った。  窓から見えるグラウンドを背景にして、そこで体育の授業が始まる前の準備体操を行っている生徒たちの明るく元気な掛け声をBGMにして、しかしまるで深海のように暗く、冷たく。 「私が可哀想だと感じて話しかけてきたのなら、やめてくれないかな。そういうのって凄く迷惑だし、うざったい」 「……」 「それに私は自分の事を可哀想だと思ってない」  悪い事をしたと思った。  僕にそんな気はなかったとはいえ、彼女を傷つけてしまったのなら謝るべきだと思う。思って、謝罪の言葉を述べようとした所、彼女は言葉を続けた。
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