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壁を背にしているために逃げ場も無く、女の子特有の甘い香りと顔を覆い尽くすフワフワの綿菓子のような感触にミツル君大変。やがて、許容量を越えた煩悩が大爆発を起こさんとメルトダウンを開始したところ、頃合いを見計らったようにティファの身体が離れた。
「ふぅっ。とりあえず、こんなものかな~」
「い……いきなり、何を……?」
一仕事終えたように清々しく額に滲んだ汗を拭うティファに、ミツルは動揺の抜けきらない真っ赤な顔で先ほどの行為について尋ねてみる。
すると、ティファは一瞬キョトンとした表情を浮かべてミツルの言っている意味がわからないといったように首を傾げた。
「何って……私の匂いを付けたんだよ?」
「に、匂い……?」
あまりにも意外過ぎるティファの言葉に、ミツルは言葉を詰まらせる。そんな犬がマーキングするわけでもあるまいし、それがどう自分の保身に繋がるのか、ミツルは皆目見当も付かなかった。
「うん、匂い。こうしておけば、もし私がミツル君とはぐれても、ケルベロスやオークなんかの鼻が利く子達はキミを襲ったりしないはずだよ。少なくとも、私が近くに居るってわかるからね」
「う、うん……」
自信満々にそう説明してくるティファだが、ミツルはイマイチ納得が出来なかった。
匂いを付けることで、ティファの存在を相手に知らせることが出来るというのは解る。しかし、それで相手が引き下がってくれるかどうかは別問題なんじゃなかろうか。
「あーっ、全然信用してない顔だ。失礼しちゃうなぁ」
「そ、そういうわけじゃないよ!ただ……ちょっと、大袈裟かなって気はするけど」
不機嫌そうに頬を膨らませるティファに、ミツルはポツリと想うことを打ち明けた。
この学園に入学してから、ベタベタされる事はあっても命を取られるような危機を感じた事は無い。それに対して、ティファがこのような念の入れ方をするのは違和感を感じずにはいられなかった。
「うーん……やっぱり、そう想っちゃうか。でもね、ミツル君。私は大袈裟な事なんて一つもしてないよ?だってね……」
翼でミツルの顔を挟み込み、ティファはグッと顔を近付ける。そして、薄く開いた唇から、その理由を呟いた。
「ここの生徒の中には、人間さんの血の味を覚えちゃった子達もいるから」
「――――ッ!」
ミツルの背筋に、戦慄が走った。
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