入学先は魔物の学園!?

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桜舞い散る並木道。春のポカポカとした陽気の下を、一人歩く少年の姿があった。 クセの無いサラサラの黒髪を耳に掛かる辺りで切り揃え、男性にしては細身な身体に紺色のブレザーとスラックス。そして首には同色のネクタイという、如何にもこれから通学しますという学生の出で立ちをしていた。 「…本当に、こっちでいいのかな……」 見慣れぬ街並みを忙しなく見回しながら歩く少年―――神楽坂ミツルは、一度足を止めて手元の地図へと視線を落とした。 なにせ、生まれ故郷の田舎から離れ、初めての都会進出なのである。底知れぬ不安を感じずにはいられなかった。 もっとも、不安の要因はまた別のところにあるのだが。 「わ、わ……っ」 ふとミツルが地図から顔を上げた時、ちょうど向かいからやってくる通行人。買い物袋を腕に提げた、どうやら近所に住む主婦の方らしい。 しかし、それはタダの主婦ではなかった。エプロンを掛けた美しいその女性の下半身は、赤茶けた鱗に包まれた蛇のもの。所謂、ラミアと呼ばれる半人半蛇の魔物であった。 彼は慌てて道の隅へと逃げると、出来るだけ顔を伏せてやり過ごす。相手もミツルの姿に訝しむような視線を向けながらも、特に気にする様子も無く行ってしまった。 すれ違った相手が離れていくのを確認して、ホッと一息をつく。そして、すっかり疲れ切ったように肩を落とした。 彼が現在居る場所は、一般的に魔物自治区と呼ばれる地域である。 その名の通り、この近辺に住む住人は魔物のみに限定されており、共生宣言以来人間も立ち入ることは許可されているが、よほどの物好きでもない限り訪れることは無いだろう。 「もう……何でこんなことになっちゃったんだろう……」 もはや何度目かも忘れてしまった愚痴を、ミツルはこぼす。しかし、どうせ他に選択肢は無かったのだ。 彼がわざわざ田舎を出てきた理由はズバリ、進学のため。その学校名は、私立パンデモニウム魔学園という。 魔界が人間界の支配を始めた際、人間界の環境に順応した人材育成という号令の下に設立された、魔物専用の超名門学園である。 ここで疑問となるのは、人間であるミツルが何故魔物専用の学園に入学することになったのか。それには、彼個人も全く理由がわからなかった。
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