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そこには、非常に申し訳なさそうに笑う少女の顔。となれば、今現在進行形で自分が触っている物体は、まさしく女性の象徴であるわけで。
「う、うわぁあああ――ッ!!」
背中にスタンガンでも受けたかのように、少女から跳んで離れるミツル。手の平には生々しいくらい柔らかな感触と温かさが残っており、申し訳なさと恥ずかしさで今にも頭が爆発してしまいそうであった。
「ご、ゴメン!本当にゴメン!わざとじゃないんだ!手だけに、ちょっとした手違いで……」
今は亡き母から、聞かされたことがある。セクハラをするような人間は、万死に値するのだと。
つまり、自分の生殺与奪権は、被害者である少女にあると言っても過言ではないのだ。
「あの~……貴方、人間さんですよね?」
「は、はい……っ」
静かな怒りを湛えてか、恐ろしく冷静な声色で話し掛けてくる少女。ミツルは、ここで初めて彼女の全容を瞳に映した。
一言で言ってしまえば鳥を連想させられる。両腕にはフワフワな羽根に包まれた純白の翼を。そして、足には鷹のように鋭い爪を備えていた。
これは、確かハーピィと呼ばれる鳥獣種の魔物である。その飛行能力は他者を圧倒し、風を自在に操る能力を持つとも言われている。
そして、ミツルはふと気が付いた。彼女の服装が、彼と同じ学園のブレザーにスカートを着用したものだったのだ。このハーピィの少女は、もしや今から向かう学園の生徒なのだろうか。
「やっぱり、そうでしたか。こんにちは、人間さん。さっきは、ぶつかっちゃってごめんなさい。ちょっと急いでいたので……」
「い、いえ、こちらこそ……」
それにしても、おかしい。彼女は何故微塵も怒りを見せないのか。唖然、そして茫然とするミツルに、ハーピィの少女は何かに気が付いたように僅かに瞳を大きく開いた。
「まぁ、大変。顔に汚れが……少し動かないで下さいね」
ミツルの頬に柔らかな翼を添えて、器用に彼女がポケットから取り出したのは綺麗な白いレースのハンカチである。
それを自らの口元に添えて湿らせると、少女はミツルの頬に付いた汚れを優しく拭い去った。
「はい、おしまいです。では、私は急ぎますから、またどこかで」
「…………」
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