マナエルの里

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  少年は、倒れた少女を腕に抱えている。 少年と少女の元へ、紅髪のロウ が駆け寄る。 「おい、お姉ちゃん大丈夫なのか?」 ロウは、心配そうに少女の顔を 覗き込んでいる。 「イバン様!可哀想だよ。何とかしてあげてよ。」 ロウの叫びで、イバンは我に返った。 「若う衆前へ!」 その言葉を合図に、行列の最後尾から、ケケテテに乗る二人の若者が駆けつける。年の頃は異国の少年と変わらない。 イバンは、駆けつけた少年二人に、先程の狩人にしたのと同じ様、上着の中の布袋を放り投げた。 「その女を、近くの民家で養生させろ。隊列には明日の払暁(フツギョウ)迄には追い付け。ケケテテの若駒狩が許されるのは、初夏の新月明けの一日、つまりは明日のみだぞ。」 若者二人は、スルリと地に降り立ち、それぞれのケケテテの手綱を道脇の樹木に縛り付け、一人が少女を背負い、一人が先回りの為に駆け出し、風の様に去って行った。 イバンは少年の側にテテケケを寄せ、ロウに向かって語りかけた。 「すまないが、荷駄隊の所まで戻って、予備のケケテテ一頭の口の輪を引いて来てくれ、それと食料と水。」 ロウは、にこりと笑い、列の遥か後ろを進んでいるであろう荷駄隊に向けて走り出した。 「少年。腹が空いているんだろ? 食事も与える、ケケテテも与える、その代わり、明日の若駒狩に協力しろ。 嫌か?」 「あの子を、ユリアを頼みます。」 カチン。 イバンがサーベルの柄をならす。 「男子だ、付いてこい!」 初夏の太陽は、午後の軌道に、身を移していた。  
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