🍀あと一歩 春編

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どの位そうしていたのか分らない。 逃げれば追いかけられて、 止まれば深まるだけ… 酸欠で頭がフラフラして、限界だよって背中を叩いた。 訴えが届いたのか唇が離れて、悟くんの顔が視界に映る。 少し寂しいと感じれば、名残惜しむように最後にもう一度だけ振れるだけの口付け。 「春…、春は…もう俺の事、嫌いになった?」 不安そうに揺れる瞳。 俺は、こんなに弱弱しい悟くんを見た事がない。 何時だって自信に満ち溢れていて、何をする時だって躊躇うことはなかった。 「…そ、な事…」 「美咲に言われたよ…、春は俺が居ないと生きていけないんだって」 「…っな!?」 「だったら、俺は春の傍にずっと居る。今までの分、取り戻す位ずっと…」 悟くんは、何時ものふわふわした笑みを浮かべて…そっと、俺の左手を取った。 「不恰好だけど…」 悟くんの声と同時に、左手にひんやりとした感触… 左手、違う…左手の……薬指。 視線を落とせば、細やかな装飾が彫られた銀のリング… 太さは歪で、決して俺の指のサイズに合っている訳でもない… でも、何処か温かくて、手作りなのだとわかった。 「……さと、くん?」 「それ、今の課題何だよね…今朝、完成させて来た」 "へたくそでごめん"って…頭を下げる悟くんに、思い切り首を振って、そんな事ない!って抱きついた。 「…好きだよ、ぁ…あい、愛し…ッ」 「愛してるよ、悟くん…」 優しく抱き返してくれる悟くん。 必死に俺に言葉を伝えてくれようとする姿が愛しくて、言葉を遮って囁いた。 二人で恥ずかしいねって笑いあって、俺達はもう一度キスをした。 _
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