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「初々しかった春も、もうアラサーかぁ…」
「それを悟くんが言うの?」
俺の肩に凭れ掛かって、深い溜息をつく悟くん…
自分何て三十路になったくせに…。
でも、確かにあの頃は若かった…
眼の前の事しか見えなくて、この人の事しか見えなくて…
我武者羅にもがいてた。
時計の針が、ゆっくりと進む…
あ、もう直ぐ12時だ…また、新しい1年が始まる。
「…春…」
ぼんやりとアナログ時計を見つめて、
長針が天辺をさした瞬間、強い力で襟を引っ張られた。
目の前には悟くんの顔、唇には柔らかな感触。
「…お誕生日、おめでとう」
目を丸くする俺とは対照的に、満面の笑みを浮かべる貴方。
今日の主役は俺なのに、何で貴方がそんなに誇らしげなの?
俺は自然と笑っていて、ありがと!って抱きついた。
「悟くん、俺の事…好き?」
「好きじゃねぇよ、愛してる…」
何度も何度も喧嘩して、何度も何度も泣いたけど…
今日も、俺の指には不恰好な指輪がはまっています。
少しの不安を、少しの勇気でかき消して…
“一歩”先には、幸せな結果が待っているから。
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