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その後の一週間なんてあっという間で、もやもやは覚めないまま春の誕生日前日になってしまった。
隣の部屋からは、父さんと話をしている春の声が聞こえる…
言いようの無い気持ちを抱えたままベッドに寝転がり、自問自答を繰り返す。
俺は、春をどう思っているのか。
俺は、春をどうしたいのか。
俺は、春を…
暫くして、突然部屋の扉を叩かれた。
「誰?開いてるから入っていいよ」
俺の声を聞いて、顔を覗かせたのは美咲だった。
何か嬉しい事が有ったのか、ニコニコと笑みを浮かべ乍ベッドに寝転ぶ俺のもとへ小走りにやってくる。
「兄ちゃん、もうちょっとで春ちゃんの誕生日だね」
「……そうだね、それがどうしたの?」
俺の腹の上に跨って、見下ろす美咲は…俺の言葉を聞くなり笑顔を曇らせ不満そうに唇を尖らせた。
「それ本気でいってる?」
「…え?」
「何で春ちゃんと一緒に居ないの?兄ちゃん達、恋人同士なんでしょ?」
……俺は、頭の中が真っ白になった。
この約一年の間、誰にも春との関係を口にした事はないし、兄弟の前では一切コイビトらしい事はしなかったはずだ。
なのに、美咲は今確かに言った…"兄ちゃん達、恋人同士なんでしょ?"って…。
「何言ってるの、兄ちゃん達は兄弟だよ?」
美咲は、俺の言葉にただ首を横に振る…そして、ゆっくりと口を開いた。
「俺ね、春ちゃんには幸せになって欲しいの…」
俺の鼓膜を震わせる、普段聞く事のない美咲の静かに語りかけるような優しい声。
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