🍀あと一歩 悟編

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頭の中は、春の泣き顔と笑顔とがグルグル回って眠る事なんて出来なかった。 何時の間にか、隣の部屋から会話が聞えなくなっていて… 時計を見れば、時計は頂点を過ぎたところだった… 「春…、おめでと…」 俺は、一人きりの部屋で静かに呟いた。 翌朝俺は、皆が起きる前に家を出た。 一晩寝ずに考えて、やっと浮かんだ春への誕生日プレゼントを用意するために。 昼も過ぎた頃、俺は目的の物を無事に手にして家に帰宅する。 そして自分の部屋で、春に渡すプレゼントを前に膝を抱えた。 春は、少なからず疑っていたはずだ…本当に俺が愛している訳じゃなかったって… 今更だと、不思議に想うだろうか… 今更だと、笑うだろうか… 今更だと、俺を見限るだろうか… 怖くて、怖くて…俺らしくもなく手が震えた。 そんな時、下から誰かが階段を駆け上がってくる音が聞えた。 こんな昼過ぎに帰ってくる子が居るなんて、聞いてない… 美咲が体調でも崩した?でも、なら階段を駆け上がってなどこない筈だ… 足りない頭で考えていれば、直ぐに足音は二階まで上がってくる。 「っさ…さとるくん!!」 声と共に突然部屋に駆け込んで来たのは、今俺を悩ませる張本人だった。 「し…しゅん!!」 まさか、帰ってくるとは思わなかった… 自分でも分かる位動揺してる…、そんな俺を見ても春は何も言わずに、俺に抱きついて沢山沢山泣いたんだ。 俺は背中を撫でてやる事しか出来なくて、何て声を掛けてやればいいのか何も浮かばない。 何度も俺の名前を呼んで、綺麗な顔をぐちゃぐちゃにして泣く春に…俺は何て声を掛ければいいんだよ。 暫くして、落ち着いた春は俺から離れた…でも、その顔は痛々しくて、目は真っ赤で涙で濡れていた。 「うく…っ、ごめ…さとるくん…」 俯く春は、俺に謝罪の言葉を残して部屋を出て行こうとした。 きっと、今…春を手放したら絶対後悔する。 絶対、春は俺の所に戻ってこない気がする… 気が付いたら、俺は春の腕を引っ張って抱き込んでいた…強く、強く、逃がさないように。 離して、って恥ずかしそうに呟く春に嫌だって言った…何で泣いてるのか教えてくれたら離すよって…。 卑怯だと思う。 春の気持ちは知っているのに、俺が安心したいから聞いたんだ。 俺の気持ちが、ちゃんと春と一緒だって確信したいから… _
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