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何時もより、少し高いスーツを着て何時も通り悟くんが寝ている間に家を出た。
何も変わらない…同じように仕事をこなして、時間を確認して待ち合わせの場所に向かった。
指定された店は、テレビや雑誌でもよく紹介されるフレンチレストラン。
席に向かうと、相手の女性は既に座っていて…遅いと上司に怒られた。
別に良い、寧ろ怒って俺の印象を悪くしてくれたら良いとすら思った。
「…遅くなってすみません」
俯いたまま、俺の方を見ようとしない彼女は怒っているのだろうか…。
「…いえ…」
黒髪を短くそろえピンと伸びた背筋、短く応えた声は落ち着いていて少しだけユリの香りがした。
ゆっくりと顔を上げる彼女から、目が離せない。
妙に胸がドキドキして、自分でも可笑しい…と感じていた。
「………さと、る…くん」
「……え?」
「馬鹿!!ナルミリョウさんだ!!よりによって男と間違える奴があるか!!」
上司に頭を押さえ込まれ頭を下げながら、俺は頭の中でぐるぐるぐるぐる考える…
目の前に居るのは、写真とは違う…違う…
「…大丈夫です。気になさらないで下さい」
「…す、すみません」
上司の平謝りを聞きながら頭を上げて、微笑む彼女を見て胸がドキリとした。
声は少し高いけど、目元や口元…雰囲気が悟くんを思わせた。
写真とは全然違うじゃないか…
黒いスーツを身にまとって、少し伏せ眼がちの瞳がとても美しい…
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