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心配そうな三男を振り切って部屋に戻ると、兄が私服に着替えていた。
「隼くん、美咲まだ下にいる?」
「居るよ、夕飯作ってるもん…」
そっか、って短く返事をして兄は二段ベッドの下に腰掛けた。
「美咲ちゃんの所に行くんじゃないの?」
てっきり、一緒に夕飯を作りに行くものだと思ったのに…兄は首を横に振った。
「行かないよ、隼くんと一緒に居る」
おいでって俺に両腕を広げる兄が、何をしたいのかが分からない。
「はは…何その手?」
「なぁんか、落ち込んでる弟を慰めてあげようかなって思ってさ」
兄の言葉に、一瞬言葉に詰まった。
俺の手首を掴んで、無理やり抱き締められれば…優しい温もりが伝わってきた。
俺より小さな兄を抱き締めて"本当になんでもないんだ…"って呟いた。
まったく似ていない双子。
小さい頃の写真は沢山有った…。
兄と一緒に移るものは勿論、両親と写った物だって沢山…
それでも、一度生まれた不安は拭えなくて俺はひっそりと兄の胸で泣いたんだ。
「ねぇ隼くん…、俺たちって本当に似てない双子だよね」
声を殺して泣く俺に降りかかった兄の言葉。
今まさに考えていた事を言われ、思わず顔を上げて兄を見つめた。
「顔も、性格も…隼くんはさ、色々考えすぎなんだよ」
丸くて、小さな手で俺の髪を撫でて、何処か遠くを見つめ乍俺に語る。
「一人で抱え込まないで、相談すればいいのに…」
一点を見つめていた視線が動いて俺を見る。
真直ぐで少し潤んだ瞳から視線が離せなくなって、少しだけ頬に水が流れた。
「…かず、…俺、おれさ…」
思ってた事を全部吐き出して、疑問とか不安とか全部全部…。
兄は何も言わずに聞いてくれて、言葉の変わりにずっと頭を撫でてくれた。
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