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アルコールで赤く染まった顔、乱れた浅い呼吸…濡れた唇は、とても艶やかだ。
仕事を始めて、美咲の交友関係はずっと広がった。
家族としてはソレを喜ばなくてはいけないって分ってるけど、ソレを快く思わない自分も居る。
初めて出来た弟を、小さい時から溺愛してた。
物心が付いて、反抗期だった頃も…美咲にだけは、歩み寄った。
"しゅんちゃん、だいすき!"
満面の笑顔で、両手を一杯に広げて抱きついてくる弟が愛しくて。
変わらぬ笑顔で俺の傍に居る、ソレが当たり前だと思ってた。
美咲の世界が広がって、俺に向けられる笑顔が減った気がした。
それが、嫌で嫌で…寂しいって感じたのは…そう昔ではないはずだ。
「…美咲、あんまり"好き"を安売りすんなよ…」
床に座り込んで、ベッドの端に突っ伏して…普段より少し熱く感じる美咲の手を握り締める。
俺も、アルコールが良い感じに回ってきていたから…少しだけ涙腺に来た。
「…にーちゃん、さびしぃ…」
スンって鼻を啜って、我ながら情け無いって思う…
年を重ねる事に、一緒に出かける回数が減った…
手を繋いで歩く事が減った、一緒に風呂に入る回数も、寝る回数も…
"だいすき!"って、言ってくれる回数も…。
寂しいんだよ、何時か本当に…美咲が俺の前から消えてしまうんじゃないかって…
悟くんに言ったら、きっと笑われてしまうんだろうけど…
「…しゅ、ちゃ…らいしゅき」
握り締めた手が、微かに握り返される…
俺の手を抱き締めるみたいに身体を小さく丸めて、むにゃむにゃ聞こえる寝言に涙が出た。
泣いちゃうのは酒のせいだ、酒のせいで涙脆くなってるだけなんだ…。
「俺も、俺も大好きだよ…美咲ぃ」
自分に言い聞かせて、声を殺してボロボロ泣いた…。
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