800人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただいまー」
玄関から聞こえてきた、かずの声に思わずビクりと肩が跳ねる。
トントンって何時もと変わらない軽い足音でリビングにやって来たかずは、床に正座したままの俺を見て目を丸くした。
「…何やってんの?え…お出迎えにしては堅くない?」
「コレは俺なりのけじめって言うもので…」
「もう足プルプルで一歩も動けないだけだろ?」
「煩いよ春ちゃっ…あうっ!!」
本当に、最初はかずが帰ってくるまで正座で謝罪の気持ちを…と思ってたんだ。
だけど、だんだん足がしびれてきて…崩そうにも痛くて動けなくなった。
情けない、本当…ただただ情けない。
「あー…そう。で?何」
かずは呆れたように笑いながら、俺の前にしゃがみ込むと俺の顔を覗きこみながら首をかしげた。
言わなきゃ言わなきゃと思うほど、口が上手く動いてくれない。
かずに呆れられたらどうしよう、かずに嫌われたらどうしよう…
何度も思ったことが一気に頭の中を渦巻いて、泣きそうだ。
かずは何も言わずに俺の言葉を待っている。
言わなきゃ…言わなきゃ…ごめんなさいって、かずだけなんだよって、言わなくちゃ。
「あ…あの…」
「もしかして、週刊誌の事謝ろうとしてる?」
「ふぇ…う、うん!あの…アレ嘘だから、俺にはかずだけで…だから、あの!」
かずはやっぱり知っていた。
自分から言わなきゃいけなかったのに、かずから言わせちゃうなんて俺の馬鹿!!
「別に信じてないよ。貴方浮気できるほど器用じゃないでしょ?」
"それにアレ、向うの売名目的だよね"って、何でもないようにサラっと言われた。
「…ばい、め?」
「だって、女の方超カメラ目線じゃん…へったクソだよね」
「あー…なるほどね」
かずに言われて、隠していた雑誌を改めて開いた春ちゃんは写真を見て納得したように頷いた。
かずの手に渡った雑誌を覗き込むと、確かに女優さんの視線はこっち…カメラが有るであろう方向に向いている。
「俺…利用されたって事?」
「ま、そういう事になりますね」
「かず、俺のこと…嫌いになってない?」
「本屋で吃驚はしましたけど…それだけです」
「よかっ…良かったぁ…」
安心したら、一気に涙が溢れてきて久々に大号泣した。
ぐずぐずに泣いて、ごめんねって何度も謝って、かずは"良いってば"って笑ってくれて…
でも、だけど…それで、一件落着にはならないんだよね…。
_
最初のコメントを投稿しよう!