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「にぃちゃん…」
「かずっ!」
床に座ったままのボクに駆け寄る春ちゃんは、隼くんを抱いたままボクの事もぎゅうって抱き締めてくれた。
"怖かったろ、良く頑張ったね"って一杯頭を撫でてくれる。
「かず、お前泣かなかったの?」
後から戻ってきた悟兄ぃに抱っこされて、ボクは咄嗟に顔を隠す。
「泣く分けないでしょ!」
「そか…隼の事、あやしてくれて有難な…お兄ちゃん」
ボクは何だか照れくさくて、本当は少し泣いちゃったんだって言えなくなっちゃった。
暫くして、美咲ちゃんが帰って来たときには雨はすっかり止んでいて…
お星様が少しだけキラキラしてた。
「かず、じゅん…良い子にお留守番できたんだってね!」
キラキラの笑顔でボク達を褒めてくれる美咲ちゃん。
"良い子!"って2人一緒に抱き締めてくれて、夜は一杯遊んでもらった。
雨の日のお留守番は怖いけど、後で兄ちゃん達に褒めてもらえるから…
たまになら良いかなって…ボクは思う。
***
アレから何年経っただろう…
「いやぁ…こんな雷雨の日は思い出しますなぁ…」
兄達が仕事や用事で居ない今日。
久々に休日が重なった双子の弟と、水入らずでゲームを楽しんでいるとポツポツ雨の音が聞え始めた。
「…思い出したくも無いね」
「あの頃の隼くんは可愛かったのになぁ…かず!かず!って」
雨脚は次第に強くなって、雷はすぐ側でなっているんじゃないかってくらい大きい。
兄達はちゃんと傘を持っていったかな?
濡れ鼠になって帰ってきたら、家に入れない…掃除するの面倒だから。
「るせぇな…お前も泣いてたろ」
「泣いてないよ、オレ…お兄ちゃんですから」
「どうだか…」
隣に座って、テレビを見つめる隼くんを盗み見ても、あの頃みたいに怯えた様子は微塵も無い。
怖がって泣いて、俺に抱きついてきた隼くんはもう居ない。
オレだって、今停電になってもすぐ復旧できる…何も出来なかったあの頃のオレは居ないんだ。
「隼くん…お互い成長したねぇ」
「…まぁね」
オレは隼くんの肩に寄りかかって小さく笑った。
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