💡暗闇の中で

8/11
800人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ
…悟くん、悟くん…悟くんっ…! 心の中で何度も愛しい人の名前を読んで、グっと唇を噛み締めた。 熱い息が唇に掛かって…もう駄目だって思った瞬間、身体から重みが消えた。 「ンのやろー!」 「うわぁっ!?」 叫び声と、怒鳴り声と、何かが倒れるけたたましい音。 軽くなった身体を起して目を凝らすと、取っ組み合いの喧嘩をする後ろ姿。 「さ…とるくっ…」 怒鳴り声は確かに悟くんの声で、高らかに拳を振り上げる後ろ姿も… 「春に何してんだよっ!!」 「まっ…待って!待って悟くん!!」 強張る身体を無理矢理動かして、拳を振り下ろす悟くんに抱きついた。 「殴ったら駄目だよ!!」 「何で止めんだよ!!コイツのせいでお前、ずっと怖い思いしてたんだぞ!!」 必死に止める俺を怒鳴りつけて…見境のない悟くんが少し怖かった。 男は悟くんの剣幕に震えていて、自分が襲われていた事なんてどうでも良いと思うくらい、同情する自分が居た。 「大丈夫だから!悟くんが来てくれただけで…十分だから!!」 華奢な身体の何処にこんな力だ有るのか… 必死に悟くんを羽交い絞めて、何度も…何度も訴えて… 「悟くんの大事な手!!怪我しちゃうから!!」 大事な利き手を、俺の為に傷つけないで欲しい… それは、心から思ったこと…。 細くしなやかで、あんなに優しい絵を生み出す悟くんの手が… 誰かを殴って傷つけられるなんて、堪えられない。 「……しゅーん…」 抵抗が収まって、呆れたように…脱力した声と共に振り向いた悟くんは何時もと同じ… 緩くて、優しい目をしていたからホッとした…。 _
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!