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=春=
講義の途中、マナーモードに設定した携帯が震えだした。
一向に止まらない震え…、誰だろう…こんな時間に電話をしてくる奴は。
俺は、机に隠して携帯を開くと画面に現れたのは見慣れた兄の名前と電話番号…
暫く震え続けた携帯は1分ほどして動かなくなった。
悟くんなら、この時間まだ授業中だと知っているはずなのにどうしたというんだろう。
俺は、なんだか胸騒ぎがして携帯を握り締めながら早く終わらないかと祈り続けた。
授業が終わり、バラバラと散らばって行く生徒の波をすり抜けて外に出れば、直ぐに悟る訓に電話をかけた。
『シュン!!学校終わった!?』
一回半のコールで出た兄は、珍しく慌てていて何時もの余裕は感じられない。
「終わったけど…どうしたの?そんなに慌てて…」
『ッ…み、美咲が!!』
俺は、悟くんの言葉を最後まで聞く事無く走り出す。
タクシーを拾うことも忘れて、一心不乱に走った。
―――…美咲が倒れた!!うわ言で…春を呼んでる!!
途中で何度も足がもつれて転びそうになる。
こんな所で普段の運動不足が出るなんて思わなかった…
見えてきたのは、掛かり付けの病院よりずっと大きな総合病院。
ああ…嫌な場所だ、何も良い思い出が無い。
階段を駆け上がって、指定された病室に駆け込めば、ベッドの横でしゃがみこむ一也と先生と話をする悟くんが居た。
「はっ…はぁ、みさき!!」
ベッドに駆け寄ると、涙をボロボロ流して目を真っ赤にする一也が抱きついてくる。
「春ちゃ…みさ、が…」
小さな身体を抱き締めて、大丈夫だよって背中を摩りながら美咲を見れば、青白い顔をしながら横たわっていた。
呼吸は浅く、腕からは何本も管が伸びていて痛々しい…
「せんせ…美咲は、弟はどうしたんですか?」
一也を宥めながら先生の話を聞けば、俺は言葉が出なくなった。
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