アントニオ猪木

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「海の守り神」 夜の海に降りそそぐ 星の光を砕きながら 船は南へと海路を 進んで行く 後にはどこまでも どこまでも 白い水泡の航路が 悲しみの糸を引くように つながっている ぼーぼーぼー 汽笛が三回むせび泣き この世の終わりを 告げるように 俺の胸に悲しく響く いつまでもいつまでも 耳の奥底で鳴り響く あんなに大好きだった おじーちゃん あんなに元気だった おじーちゃん あんなに大きな夢を 持っていたおじーちゃん 真っ赤に燃えた赤道直下 太陽の下で水葬された おじーちゃんの葬儀は まるで映画の シーンのようだった 乗客みんなが見送る中 クレーンに吊らされた 棺が日の丸にくるまれ 重い鉛を抱いて カリブの夕陽を 浴びながら あっけなく南の海の 中へと消えて行く ぼーぼーぼー 汽笛が三回むせび泣き 今までこらえていた涙が 止めどもなく溢れ出た 「乞食になっても 世界一の乞食になれ」 そう教えてくれた 豪傑のおじーちゃん 年老いた残り僅かの 未来をブラジル行きに 賭けたロマンチストの おじーちゃん 移民の夢と希望を運ぶ サントス丸 その船の上で おじーちゃんは死んだ パナマ運河を抜けた 港で買った青いバナナを 食べたのがもとで 三日間苦しみ ついには帰らぬ人となってしまった 心の中に穴があいた ように空しい 俺が一人デッキで 涙の風に吹かれていると 船長さんが近寄ってきて こうささやいた 「今日からおじーさんは 海の守り神に なったんだよ…… だから世界中の船が ここを通る時かならず 汽笛を鳴らして 行くんだ」 後から知ったけど 赤道を通過する時には すべての船が汽笛を 鳴らすんだって それでも俺は信じている 船長さんのあの言葉
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