chapter 1

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 俺は無理矢理ゴブリンに突き刺して歪んだ剣を投げ捨て、再び剣を創造した。魔力はもう無い。本来なら魔力が切れれば当人は昏睡状態に陥るが、絶対量が少ないためか俺にその症状は表れなかった。…………そのおかげで俺はこの戦いを生き抜く事が出来る。今だけは少ない魔力に感謝しよう。 「…………まっ、その魔力が無ければこんな事にはならなかったんだがな」  自嘲気味に呟くと俺はゴブリンに向かって走り出した。 ――――先程使ったごり押しは魔力不足の所為で使えない。しかし敵が一匹だけなら幾らでも戦いようはある。  俺はゴブリンに肉薄し、ゴブリンはそれを防ごうと剣を横凪ぎに振るう。無論、限界速度で走っていた俺はそれを避けきる事は出来ない。 「当たらねえよ」  俺は止まる事なく身体を倒した。全力で、背が地に着く程勢い良く滑る。そのスレスレを…………いや、巻き上げられた髪を僅かに斬られながらも俺は、確実にゴブリンの一撃を避けきった。そして交錯する刹那、がら空きとなったゴブリンの首に刃を滑らした。  ブシュッ、と血が吹き出る。ゴブリンは茫然と自分の首筋に手を当て、そのまま倒れて動かなくなった。 「…………ふぅ」  肺の中が空になる程息を吐き、その場に腰を下ろす。――――何とか依頼は達成出来た。  安堵感から俺はその場で横になり空を仰いだ。…………瞬く星が、俺を祝福している気がした。
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