chapter 1

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 俺は立ち上がって再度深呼吸をし、生の実感を得たところで歩き出す。向かう先は依頼人である老夫婦の家。報告義務があるために足を運ぶのだが、仮にそれが無くとも向かっただろう。  何せ俺も人の子だ。家族から離れてしょっぱい学生生活をしていると、どうしても人の情に飢える。フィーが居るおかげで寂しいなんて思ったりはしないが、老夫婦と過ごした僅かな時間は安心できる心地よいものだった。  唇を綻ばせ歩く。庭と言っても畑だから家まで少し距離はあるが、既に視界に収まっている。家を出る時にお婆さんがデザートを作って待っていると言っていたので、今はそれだけが楽しみだ。  そう幸せな未来を夢想する俺は、はっきり言って油断していた。そんな俺を狙うのは楽だっただろう。――――俺は容易く吹き飛ばされた。 「ガッ……!」  背中に衝撃を感じると同時に、普通は曲がらない方向に身体を曲げながら吹き飛ばされ、畑を仕切る柵に強かに頭をぶつけて停止する。  どっちが地面でどっちが空か分からない状態で身体をくの字に折り咳き込む。突然の攻撃に頭がついていけず、身体中が悲鳴を上げるも無理矢理身体を起こしその場から離れる。  どうやらその判断は間違っていなかったようで、数瞬遅れて俺が寸前まで居た場所が爆発した。
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