prologue

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 1 ――――忘れられないその日、俺は少しテンションがおかしかった。誰もが目を逸らすなか、俺だけは走った。金切り声をあげる暇さえなかった。ただがむしゃらに走った。  映画館からの帰りだったんだ。主人公が颯爽とヒロインを救い、その主人公に自己を投影してカタルシスを感じていた。その帰りに、信号を無視して突っ込んで来るトラックを視界に収めてしまった。そのトラックの先には中学生くらいの女の子。容姿は確認出来なかったが、映画の所為で自分に酔っていた俺は、もちろん反射的に身体を動かした。  危ないッ! とかちょっと格好つけて女の子を押した。今思えば押した先に危険があったかも知れない。やはり俺は自分に酔っていたらしい。しかも抱き着いて倒れ込めば役得だし、自分も助かったはず。だけど何故か『押して』しまった。少女は危機から逃れ、俺はその場に立ち尽くした。何十メートルか先にはトラックがあった。  結構スピードが出てはいたが、全力でその場から離れれば助かっただろう。でも、身体は動かなかった。逃げれば助かるのに、「あっ、死んだわこれ」とか思ってぴくりとも動かない。まさに蛇に睨まれた蛙。トラックに睨まれた俺。  そしてそのまま――――トラックが、横転した。
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