そのよん。

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背筋に、冷たい物が 流れ 膝がガクガクと震える。 (…怖い) 今まで、母が こんな目をしたことが あっただろうか。 びしびしと伝わってくる 憎悪、殺意 俺は、その場から 動けなくなった。 よろよろと 覚束ない足元で 母がこっちへ来る。 ガチガチと、奥歯が 音をたてる。 怖い、怖い。 ―そこからの記憶は 不思議と客観的な物だった。 母が俺の髪を鷲掴み 引きずる。 ぶつぶつと何かを呟きながら 母がナイフを振り上げる。 ナイフが、俺へと 降り下ろされる。 目の前が、赤く染まった。 赤い、赤い、 赤い ただ、赤い。 痛い? 熱い? 分からない… ただ、ただ、赤い。 視界の隅で 母がゆっくりと 倒れていくのを見た。 部屋に充満する 苦い土と錆の匂い。 ただ、目の前は赤かった。
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