そのろく。

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「お前のことが……ッ」 -コンコンッ ノックの音に ビクリと肩が跳ねる。 …いいんちょーが 小さく息を吐くのが分かった。 「…っはい……」 慌てて返事をし 扉に目を向けると、 入ってきたのは 大きな花束を抱えた 看護士さんだった。 誰かが花束を 持ってきてくれたらしい。 記憶が戻ったことを いいんちょーが告げると 看護士さんは医師を呼んでくると、 足早に病室を出ていった。 そして、いいんちょーも また来る、とだけ言い残して 学園へと戻った。 引き止める間もなく 帰ってしまったいいんちょーに 呆気にとられる。 頭の中をぐるぐると さっきの言葉が巡っていた。 『お前が、必要なんだ… 美田園……』 『俺は…お前のことが……ッ』 …いいんちょーの言葉の続きが、 分からないほど 俺は鈍感じゃない。 でも、 いいんちょーが 俺のことを好き…だとか そう思えるほど 純粋ではなかった。 …きっと、同情だ。 期待しちゃいけない。 分かってる。 もしかしたら、 違う言葉が続いたのかも 知れない。 いいんちょーが、 俺のことを好きかもしれない、なんて… そんなの、 都合のいい妄想に 過ぎないんだから…… 期待しちゃ、だめだ。
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