序章

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(褒めてないし…) この容姿が容姿なだけに男娼扱いされ、知らない男に数えることすら億劫なほど襲われかけた こともある 「かぁぁつぅぅぅらぁぁぁぁ?」 地を這うような低い声に楠が後ろを振り向くと鬼の形相をした短髪の美青年 長州藩士 吉田 稔麿 やや長めの前髪から覗く切れ長の双眸には殺気しかない 普段の吉田は兄貴肌でイタズラ好きな楠の頼れる男だ。だが人一倍、幕府を恨んでいる一人である 「桂いい加減にしねぇと刺されるぞ。俺らから」 「うわ、それは勘弁。特に栄太郎と俊輔の二人組は最悪だよ」 「良かったな日ノ本にいなくて」 栄太郎は吉田の幼名だ。今は士分であるが彼は武士の端くれ身分の足軽であった そして九つからの付き合いである伊藤俊輔は中間だった 毒舌で黒くそれは黒い伊藤とイタズラ好きな吉田。好き嫌いがハッキリし年も同じ、身分も似たようなものだったからすぐに意気投合 周りの者たちをよく困らせていた 「にしても伊藤先生が異国に行くなんて意外ですよ」 「そうか?俊輔の趣味は人間観察だぞ。後々に脅す為にだけど」 「先生、貴方の存在は忘れません」 「死んでないから。それに脅される材料なんて僕にはないよ」
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