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「隼人~、カラオケ行こうぜ」
授業が終わるやいなや、お調子者の清原が背後から声をかけてきた。
「悪い、パス」
ふりむきもせずに断り、隼人はぺちゃんこの鞄を小脇にかかえた。
「つきあい悪いじゃん。また、美緒都を捜しに行く気?」
清原は隼人の前にまわりこみ、何か言いた気な表情で隼人の顔を上目遣いに見た。
「知ってんなら、訊くな」
にべにもない口調で言って、隼人は清原の脇をすり抜けようとした。
その腕を、清原が素早く掴む。
「もうよせよ。ひと月も経ってんだぜ」
一瞬で真剣な表情に変わった清原の目が、諦めろと告げていた。
どす黒い炎のような怒りが胸を灼き、隼人は突き刺すような眼差しで清原をねめつけた。
「美緒都は生きている。二度とそんなことを言うな」
低い、押し殺した声だった。
漆黒の髪の間からのぞく鋭い切れ長の双眸が、憤怒に燃えてまっすぐ清原を射すくめていた。
その迫力に気おされたように、清原が手を離した。
隼人は、プイと身を翻して教室を出た。
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