第1章

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(どこだろう、ここは……) もう一度胸裏につぶやいて、美緒都は慎重に歩を進めた。 何も、思い出せない。 覚えているのは、自分の名前だけだ。 ここがどこなのか、なぜ自分はここにいるのか、まったくわからないだけに、いっそう強く不安が胸を締めつけた。 ……カーン……カーン…… かすかな鐘の音が聞こえた。 次第に、近づいてくる。 やがて、霧の中に、建物の黒いシルエットが浮かびあがった。 ……教会……? いや、違う。あれは…… 行く手に現れたのは、壮麗な城だった。 まるで、中世ヨーロッパのような…… 誘いこまれるように、美緒都は城へと近づいていった。 両開きの木製の扉が、軋んだ音をたてて開いた。 入っちゃいけない! 引き返せ! 心の中で、警鐘が鳴っている。 だが、心とは裏腹に、美緒都はふらふらと扉の中へ足を踏み入れた。
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