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1・依頼
[1]
目覚まし時計が、頭の上で鳴り続ける。
うるさそうにベッドから手を伸ばし、時計を中へと引き込み、耳障りな音を止める。
そうして、再びベッドの住人は、気持ち良さげに寝息をたて、夢の国への扉を開けようとしていたが。
「いつまでのんきに寝てやがるっ!起きろ!」
怒声と共に、一気に掛け布団を剥ぎ取られ、夢への階段から転げおちてゆく。
「…せっかく、みうちゃんとデートまでいってたのによお」
アイドルとの楽しい日々が、見事に砕け散る。
「あんたにぐずぐずしていられると、この私が嫌な思いをするのよっ、ほら、さっさと着替えろこの馬鹿者!」
ちっ、と舌打ちをし、寝癖の髪を掻く。
ふわぁとあくびをし、ベッドから起き上がる。
「早くしないと朝飯抜きよっ!」
階段下から叫ばれる声へ、へーへーと肩をすくめ、制服のシャツへ手を伸ばした少年。
三鉉木九郎(ミツルギクロウ)。17歳。
おはよーす、と言いつつ、1階のリビングへと入る。
「あらおはよう。珍しいこと。お姉ちゃんに階段から蹴られないで、無事にこられるなんて」
「…ってゆーか、普通はそうなんだけど」
母親は、息子の言葉を無視し、「早く食べちゃってね、お父さん、もう道場のお弟子さんたちのお稽古してるのよ。お姉ちゃんも一緒に参加してるからもー、朝からてんやわんやよ」
と、ペラペラとしゃべり始める。
昔から、人の話を聞かないのが欠点である。
息子はそうすかと呟き、ずずっと味噌汁をすする。
「まず…」
ちなみに、なかなかの味音痴でもある。
…これがいつもの、三鉉木家の平凡な朝の一風景であった。
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