グランシェフ 誕生

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グランシェフ 誕生

シェフの名は木元荘大。このル シャルムは10年の渡仏後、老舗和菓子店を経営する17代目がパトロンとなり、帰国後グランシェフとなる。宣子夫人とは、パリで知り合い「ル シャルム」をオープンすると共に結ばれた。ふたりにまだ子は授かって無かった。 それは順風満帆な中の出来事。この突然の死の真相は、シェフにさえ未だ明かされていない。 出会い ガイドブックを片手にシャンゼリゼを右往左往している日本人女性がいた。 「あの、このお店を探してるんですが...。」 「ヴゥ パルレ フランセ?」 「えっ?」 「何よ!私のフランス語じゃ通じ無いの?」 宣子は、待ち合わせのカフェに行く途中、道に迷ってしまった。 その姿が木元の視野に入ると信号を渡り様子を伺った。ちょうど新刊の料理専門書が入荷したと知らせがあった休日の出来事である。 「だ、大丈夫ですか?」 「あ、貴方は日本人ですか?助かったわ。実はココに行きたいのですが...。」今にも泣き出しそうなところへ思わぬ救世主にほっと胸を撫で下ろした。 「ここからだと少し距離があるので、近くまで案内しますよ。」 「え、あっ、それじゃお願いします...。」願ってもない返事に宣子は警戒心を解き始めた。「あの~、フランスに詳しそうですけど、お一人で旅行ですか?」 「僕はパリ市内の料理店でキュジニエをやってます。」 「えっ?」 問い正すため足早に歩く木元を追った。間もなく目的地に向かって木元は指差した。 「あ、あそこを右に曲がった二軒目ですよ。店頭にテラスがあるので分かると思います。」 「そうですか、有難うございます。助かりました。」 「あら?宣子じゃないの!」 「え、お友達?」 「こんにちは!初めまして。」 先に着いていた奈緒子は、ちょっと心配になり、近くまで宣子の姿を捜し始めていた。 そして、ばったり鉢合わせしたのでお互いがビックリした。 木元は、フランス語が理解出来る程生活に馴染んできたせいか、久しぶりに日本語で交わすコミュニケーションに新鮮味を感じた。 この後彼女達は食事に向うのだが待ち合わせのカフェでは時間の許す限り会話を交わした。 「お勤めは何処のレストランですか?」 「メゾン ラ メール。一応二つ星の。」 「あ、知ってる!日本版のガストロノミー デュ モンドに出てたお店!」 「お名前は?」 「木元 壮大です。」 「今日はホントに助かりました。いつか、お礼を...。」
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