願い

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  これで6回目。最後の踊りを終えた僕は、ついに身体に限界が来たらしく、その場に倒れてしまった。 「あ~あ、倒れちゃった」 無様な僕を見下して彼女が言う。 「君が無理矢理踊らせたせいじゃないか」 精一杯の嫌味を言ってみたけど、彼女は聞く耳を持たない。 …………いや、そうじゃないか。始めから彼女には…… ――聞こえていないんだ。僕の声なんか。 「まあいいや。どうせ捨てちゃうんだし」 彼女はそう言い残して、その部屋から出ていった。 ――僕はブリキ人形。 踊る事しか出来ない、何よりも無力な人形だ。 ああ、僕はついに捨てられるのか。 願わくばそうなる前に自由になりたかったけど、所詮人形でしかない僕は、背中のネジを回して貰わなきゃ、動くことさえ、踊ることさえ出来ないんだ。 しかもさらに、僕は欠陥品だった。関節の接続が上手く出来なかったらしく、すぐに取れてしまう。 もはや壊れて取れた自分の脚を眺めながら、捨てられるその時を待つしか出来なくなった。 ああ、もう本当に、おしまいなのか。 ――自由になりたかった。 そんな叶うわけが無い願いを、僕はついに、唱える事さえ出来なくなる。        ブリキ          完
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